二か月位前の事ですが、夏物と冬物の衣類や寝具の入れ換えをやって居た時に、羽毛布団をケースに収納して、押入れの一番高い「袋戸棚」の中に仕舞いこむ為に、椅子を持ってきてその上に乗り、傍に置いて居た布団ケースを右手に持って、体を左回転させながら押入れの方へ顔を向けた時でした。鈍い音と共に、突然鼻の下の上顎に鋭い痛みを感じたのです。正に「目から火が出る」とはこの事でした。年が年ですので、「高い所に登った時に転んではいけない」と、その事ばかり気を付けて作業をやって居たのです。幸いに椅子から転び落ちる事は有りませんでしたが、「伏兵が居たのです」。振り向いた拍子に、袋戸棚の敷居の角に、思いっきり鼻の下の上顎をぶっつけてしまったのです。その痛さたるや、長い事穏やかに暮らしている老人にしては想像も出来ないほどの痛みでした。「鼻の下の上唇」が「敷居の固い木」と「口の中の固い前歯」とに挟まれて、押しつぶされる様な恰好でぶっつけてしまったのです。瞬間、私は、「前歯が折れたかな」と感じた位でした。が、歯は大丈夫でした。href=”http://blog.katashi.net/up/6a8456a7988f759173bcf44e1540ff61.jpg”>
しばらくその場に蹲って、強い痛みが通り過ぎるのを待ちました。時間と共に痛みは少しずつ消えていきましたが、今度は「ぶっつけた上唇」が急に膨らんできた様に思われたので、急いで洗面所へ行って鏡を見たところ、鼻の下の上唇に「内出血」のあとが出現してきたのです。指で触って見ると、上唇全体が腫れ上がって痛みが有り、それ以上さわれない様な状態でした。気がついて見ると「上唇が腫れ上がっては居るけど、直接触れない限り、痛みを感じない」事が解ったのです。丁度その頃は、外出する用事も無く人に見られる機会もない時でしたので、その日以後の髭そりは「鼻の下を」省いてやるようにしたのです。こうして十日位過ぎて、外出する用事が有って、そのままの格好で人前に出たのですが、特に鼻髭の事を話題にする人も有りませんでした。更に十日位して、趣味の会の仲間の所へ行った時、初めて「如何したの」と尋ねられました。事情を話して「腫れが無くなり、痛みが取れたら剃り落とす心算です」と応対して置きました。事実その心算で、腫れや痛みが無くなるのを待って居たのです。ぶっつけてから一ヶ月半位過ぎた頃でした。上唇の腫れも痛みも内出血の跡も無くなったので、「明日の朝剃り落とそう」と決心して、翌朝洗面所へ行き、髭剃りを持ってシェービングクリームを付けてやおら、伸びた鼻髭を剃り落とそうとした時です。それまで、私自身で全く予期しない事が起きたのです。鏡に映った鼻髭を見ている内に、「今これをそり落とすのは何だか可哀想だ」「折角此処まで伸びてきたのに」と言う様な「鼻髭に対する思いやりの気持??」が芽生えてきたのです。この事は全く予期して居ませんでした。丁度「自分で飼って居るペットを虐める様な心境が出現した」のです。「せっかく伸びているのに・・・可哀想だ・・・」って言う心境です。以来今日まで剃り落とさずに過ごしてきました。この鼻髭を見た人の中には「似合ってるよ」と、言ってくれる人、「変な感じ」等と言ってくれる人、色々ですが、私は、自分の気持ちの中で、
「剃り落そうとする時に、前記の様な後ろめたい気持ちが有るうちはこのままにして置こう」と思って居ります。今年「喜寿を迎える」わが身にとって、せめて、これ位の我儘は許されるのでは、と、ひそかに思いつつ・・・。